都会

1月26日 薄い緑の光はオーロラだった.

Reykjavik市内(自転車)

まだ時差ボケが抜け切らないのか(いや,そんなことはない前の日まで朝早す ぎる時間に起きていただけだろう),早く起きてしまう.どうせ朝太陽が昇る のは遅い時間なのでもっと寝ていればいいのになあ.仕事に行かなければなら ないロバートだけはきちんと起きてきた.アツーシー(敦),おはよう,早いね え.--なんで他の人起きて来ないんでしょうね?日本人の女の子には会った?-- いえ,残念ながらまだ.2人でまだ暗い中朝御飯を食べた.日本の経済の低迷 の原因は?銀行に問題ががあるんじゃない?あー,こんなところで経済の話され てもまともな答えができない.おまけに僕の英語ときたらとてつもなく貧弱で ある.もう少し英語ができさえすれば...対等に話ができるであろうになあ. やっぱり英語ももっと勉強しなきゃいけないなあ.

今日のバスに乗らなければならないボブが8時ごろ慌てて起きて来て,すごく 慌てて出発してしまった,と思ったら1時間くらいして帰って来た.どうやら バスの時間を勘違いしていたらしい.このことをもう一人の同室のアメリカ人 のジョーに話すと,笑いそうになりながら「いや笑ったら悪いね」とか言って た.すごく真面目で礼儀正しい人だ.ジョーは友達の農場のところで休暇を過 ごすためにやってきた,と言っていた.とても丁寧で上品な恰好いい人だった.

朝御飯を食べ終って明るくなるのを待って本など読んでいると,昨日から噂の 日本人の女の子が来た.こんにちは.ユキコさんは医学生で,5泊というハー ドスケジュールでアイスランドに来ていた.実習のスケジュールがきついみた いだ.忙しい学生もいるもんだ.暇人でよかった.ユキコさんも当然(僕から 考えれば当然なのだが)アイスランドだけが目的で来ていた.オーロラをすご く見たがっていた(このときアイスランドでは3週間くらいオーロラは見えてい なかった).彼女は今晩からブルーラグーンのホテルに泊まりに行く予定だっ た.(ブルーラグーンはオーロラ観察地としても有名).レイキャビクに来る前 もブルーラグーンのホテルに泊まっていたのだけど,客は彼女一人だけだった そうな.

明るくなったので町を適当に自転車で走った.聞いていた通り天気はすごく変 わりやすく,晴れていたのに急に雲って来たと思ったら雪が降って来たりする. そしてまた何事もなかったかのように晴れている.路面には雪があるとは言え まだまだ余裕で走れるくらい.午後2時すぎに天気が悪くなって来たので寒い しYHに帰った.

着いたばっかりのノルウェー人の女の子のハガとコリーヌ(従姉妹らしい)とも うずいぶん長く滞在してそうな(そして何回もアイスランドに来ていそうな)ア メリカ人のマイク(髪の長いマイクとは別人)とスーパーに買物に行って,だら だら過ごした.ハガとコリーヌも1ヵ月ぐらいアイスランドに滞在する予定で 何も決めていないらしい.マイクはアイスランド通みたいでいろいろ教えてく れた.どこのプールがどうだとか(レイキャビク市内にはいくつか屋外の温水 プールがあり一年中営業している)どの食べものがどうだとか,いろいろ.

今日レイキャビクを去り,ブルーラグーンのホテルに滞在する予定のユキコさ んがYHに帰って来た.髪の長いマイクのデジカメでみんなで写真を撮った.今 日もオーロラが見えないんじゃないかとそればっかりユキコさんは心配してい た.確かにここ何週間か全くオーロラが見えていないみたいで,それはアイス ランドでは珍しいことらしかった.彼女は,ほぼオーロラを見るためだけにア イスランドまでわざわざやって来たみたいなので,そりゃ見れなきゃ残念であ ろう.僕もこのときまでにまだオーロラを見ていなかった.髪の長いマイクも 初めて見たときは感動したらしい.あと2日しかいないユキコさんは「1ヵ月も いたら絶対見れるね」と僕のことを羨ましがっていた.みんなで(といっても2 人のマイクと僕だけ)で盛大に見送りしてユキコさんは行ってしまった.(後で 聞いたらブルーラグーンでとてもきれいなオーロラを見ることができたそうだ)

「明日の夜みんなでブルーラグーンに行こう」とマイク(髪の短い方)が言って いたが,結局お流れになった.5人ぐらい集めないとレンタカー代があまり安 くならず,結局5人も都合が着かなかったみたい.

夜,YHの裏の公園を散歩しに行った.もしかしたらオーロラ見えるかな,と思 いながら空を見上げていると一瞬雲が晴れ,青白い光がぼんやりと見えるでは ないか.まぎれもないオーロラだ.緑の光は最初は頼りなさげだったが,はっ きりとオーロラだとわかった.あまりかっこいい形ではなかったがとりあえず 見れたことに満足してYHに戻った.YHに戻るころには空はまた雲に覆われ,オー ロラは見えなくなっていた.帰ってからみんなに自慢した.まさかこんな雲の 多い日に見れるとは誰も思っていなかったようだ.

1月27日 オーロラは緑色に輝く.

Reykjavik市内(自転車)

朝起きたら晴れていた,と書きたいくらいこの日はいい天気だったのだが,朝 起きたときはもちろん,お日さまは地平線のはるか下.今日はボブはきちんと 起きて,アクレリ行きのバスに乗るために早くYHをあとにしていった.太陽が 昇る時間になって今日はものすごい天気がいいということがわかった.アイス ランドに来て初めての晴れな日だ.四方の山々が全部きれいに見える.なんて 美しい町なんだ.「晴れた冬の日」ああなんていい響きの言葉なんだ.


エーシャ

YHの裏の公園から町に出ていく.天気が晴れているだけで全てのものが美しく 見える.こんなにもきれいな町だったのか.北側には海を隔ててエーシャ山が 見える.南側にも東側にも山が見える.こんな町に住める人は幸せだと心から 思った.幸せいっぱいだった.レイキャビク市内の丘の上にレイキャビクに供 給する温水を貯めておくタンクがあり,その上にカフェとレストランがある. ライアンやマイクの話によると「レイキャビクで一番素晴らしい場所」らしい ので,行ってみた.行きは歩行者と自転車専用の,車の来ない裏道からupした. 誰一人として人がいなかったが,正面にまわると結構車が多く,人もまあまあ いた.この町は車が多い.日本の感覚で言うと人工10万ちょっとの町に車がこ んなにいるはずはない.上のカフェに行ってテラスに出てみるとまわりの山か ら海からいろいろ全て見えた.

今日の夜はアイスランドマウンテンバイククラブのミーティングに来ないかと 言われていたので早めに夕飯を食べた.ロバートもダンスのクラブに行くとか 言って早めに夕飯を食べていた.


IFHKのBOX(?)その1 写ってるのはポール

夜8時くらいからミーティングをやってるから,それくらいに来たら?とアイス ランドマウンテンバイククラブ(IFHK)の会計兼インターネット担当のポールに 事前にメールで言われていたので7時半くらいにYHを出た.クラブハウスは旧 市街の一角にあり,YHとは町の反対側だ.古い倉庫を改造したクラブハウスは とっても快適そうで羨ましかった.うちのBOXもあれくらい大きかったらいい のになあ.一部に2階が作ってあってその上がテーブルと椅子があるくつろげ る場所になっていた.1階は作業場みたいになっていて,新しいマウンテンを1 台組み立てているところだった.

「アイスランドでのサイクリングについての一番いい本はドイツ語なんだ」と ドイツ語で書かれたアイスランドのサイクリングガイドを見せてくれた.「残 念ながらアイスランド語で書かれたアイスランドのサイクリングについての本 は1冊もない」と,本当に残念そうに話していた.そりゃあ人口40万人に満た ない国でどれくらいのサイクリング(ツアー)人口がいるというのだろうか?僕 等が普段耳にしたり読んだりする言葉,日本語とか英語とか中国語とかロシア 語とかスペイン語とかアラビア語とかに比べたらアイスランド語なんて超マイ ナーな言葉(でももちろんアイスランド語より使用人口がずっと少ない言葉は 世の中にたくさんあるけど)なんだなあということを改めて実感した.


IFHKのBOX(?)その2

僕なんかにすればアイスランドは(発電のために)化石燃料を一切燃やしていな いので,空気がきれいなイメージがあるが,ポールは「車が多すぎる」と不満 らしかった.どこの国でもサイクリストの考えることは一緒なのかもしれない. あと水力発電についても「いらないところにダムを作ってる」と怒っていた. アイスランド人にもっと自転車に乗って欲しい,とポールはさかんに言ってい た.例えばヨーロッパの他の都市,例えばコペンハーゲンやアムアステルダム に比べて確かにレイキャビクは車の地位が高そうだ.

1999年の夏に手漕ぎ3輪車でアイスランドを横断した脚のない元イギリス軍人 の報告書をポールが見せてくれた.あまりに素晴らしい内容だったので「欲し い」って言ったらコピーを1部くれた.いや,本当にすごい話です.感激した. こんなことができるのか,って感じだった.

ポールがデジカメで写真を撮りまくってくれて,全部あとでメールで送ってく れた.あと,クラブの部内誌を2冊程くれた.これは言うなればアイスランド 語で書かれた自転車に関する唯一の定期刊行物である.そう考えるとなんかす ごい.

クラブハウスからの帰り,海岸沿いのサイクリングロードを走っていると空に オーロラが広がっていた.昨日なんかとは比べものにならないくらいきれいな オーロラだ.時間とともに,すこしずつ形を変えていく.寒かったけれど何度 も立ち止まって自転車から降りて,空を眺めた.これがオーロラなのか.前の 日に不完全とは言え見ているのであまり感動はしなかったが,それでもきれい なものには変わりない.こんなものが日常的に見れるなんてやはりアイスラン ドの冬も悪いことばかりじゃなさそうだ.

YHに帰ったのは11時を過ぎていて,ドアの鍵は閉まっていたがベルを押すとラ イアンが起きてドアを開けてくれる.ライアンは一日おきにこの仕事について いてそれで無料でYHに住まわせてもらっている.東洋系アメリカ人のリーも外 でオーロラに見とれていた.中ではロバートが起きていて,「オーロラが見え た」と言うと嬉しそうだったが別に見に行こうとはしなかった.もう何ヵ月も アイスランドに住んでいるとオーロラも珍しいものではなくなるのかな.ロバー トが言うには天気予報によると明日は吹雪らしい.

部屋に帰ってみるとジョーとボブはいなくなっていたけれど,トルモッドとス ティアンというノルウェーからアイスランドへの留学生の2人連れが来ていた. ロイガルバトゥンという田舎町にある大学(アイスランドではほとんどの高等 教育機関が田舎にあり,全寮制)に通っているらしい.それで彼らは役所の手 続きとか買物をするためにこの週末の3日間,レイキャビクに来たのであった. 今日はオーロラを見ていないと言っていたが,アイスランドに住んでいるなら (しかも田舎に)大して珍しくもないんだろうな.

1月28日 大雪に埋もれても町は変わらず動いている.

Reykjavik市内(自転車)

天気予報通り,朝から大雪だった.しかも風も結構吹いているみたいで視界は 最悪だ.昨日の夜のきれいなオーロラが嘘みたいだ.マイクとかハガとかコリー ヌとかはもう今日は絶対に出かけない,って感じでくつろいでいた.トルモッ ドとスティアンは,役所に行かなきゃいけないと言って夜が開ける前から町へ 出て行った.彼らには貴重な都会での週末なのだ.

僕も明日から有効のバスパスが欲しかったので,どうしてもバスターミナルに 行かなければならず,お昼前ごろに完全装備して大雪の中に自転車で出て行っ た.道路は一応,除雪されていたが次から次へと雪が降ってくる上に,路肩も 雪置場と化していた.だから車におびえながら走らなければならず,かなり疲 れた.おまけにこんな雪だっていうのに車の量はいつもと全く変わらない.ま あ当り前なのだろうけど.

やっとの思いでバスターミナルについて1週間有効のバスパスを買った. 10,500クローネ.高いのか安いのかよくわからないが,乗りまくればすぐに元 は取れる値段だ.今日こんな大雪なのにバスはちゃんと動いているのかなと思っ て聞いてみるとちょっと遅れてるけど別に問題ない,という返事.すごい.こ れくらいの雪で止まっているようでは駄目なのかも知れない.

帰りに町の中とか海岸沿いのサイクリングロードとか行ってみたけど,すごい 雪で大変だった.特に歩道/サイクリングロードは全く除雪が行われておらず, 走るのはどう考えても不可能だった.しかしこんな日にも地元の元気なサイク リストはマウンテンで元気に走っていた.やはりサイクリストは世界共通で通 じるものがあるみたい.

夕方YHの近くのプールに行く.前にもちょっと書いたけど,アイスランドは国 中に温水プールがある.ほとんどは屋外で,1年中営業している.泳ぐために 来ている人ももちろんいるけど,お湯につかりにだけ来ている人もいる.サウ ナとかもあるし,いろんな温度の(浴槽?)があるので楽しめるし,何しろ外気 温が氷点下でも,外で暖かく泳ぐことができるのでとっても楽しい.雪なんか 降ってたら多分,最高だ.実際,「嵐の中で泳ぐのは最高」らしい.あと,シャ ワー室には石鹸が常備されていて,プールに入る前に髪の毛から体まで洗わな ければならないので,体を洗いたい人にも最適.ほとんど日本の銭湯感覚であ る.僕がプールに行ったときは残念ながら雪もほとんどやんでいて,ちょっと 残念だった.

夜御飯を作ってるときにロバートに,日曜日にハフナルフョルドルに昼飯を食 べに行かないかと誘われた.どうやらバイキングの民族衣装を来た人達がサー ビスしてくれるバイキング料理の店らしかった.日曜日はバスでどこかいこう かなとか思っていたが,まあずっとバスに乗り詰めるのもしんどそうなので, 行くことにした.しかし,ロバートってアイスランドに住んでるのに何でそん な観光客目当てっぽい店に行きたがるのかなあと,ちょっと不思議だった.

夕御飯を食べ終ったころ,マイク(髪の短い方)がついに出発してしまった.こ れからイギリス,ノルウェーとか行くらしい.髪の長いマイクと2人で盛大(?) に見送りした.

お茶なぞ飲みながら葉書を書いているときにトルモッドとスティアンがやっと 帰って来た.1日中出かけていたらしい.こんな天気の日にご苦労さま,と本 気で思った.普段はものすごい田舎(と彼らが言っていた)に住んでいるので, 都会に来たらやることがいっぱいあるみたい.都会に住むこと,とか田舎に住 むことについて夜,ずっと彼らと喋ってた.彼らの学校はロイガルバトンとい うところにあって,学校以外にはなにもないらしい.休みの日にやることと言っ たらプールで泳ぐか(アイスランドではどんな小さな集落にもプールがあると いうことを忘れずに),山に登るくらいしかやることがないという.トルモッ ドは体育の教師になりたいぐらいの運動好きだからそんな生活もあまり苦では ないみたいだけど.僕もちょっとぐらいだったらそんなとこで生活するのも悪 くないかなと思うがずっとそんな所にいるのは耐えられないだろう.でも東京 みたいな大都会に住み続けるのもしんどいに違いない.

1月29日 天気良けれども風強し.田舎とは.

Reykjavik --(バス)--> Hellisandur --(バス)--> Reykjavik


ヘリソンデュール行きの小さなバス

9時のバスでヘリソンデュールというスネェフェル半島の先っぽの方にある田 舎町に行くことにしていた.朝早いので,例によってロバートぐらいしか起き ていない.でも今日土曜日だよ.ロバートは今日はネットカフェに行ったり ショッピングをして時間を潰すらしい.このネットカフェはここのYHに泊まっ ていた人の間では基本で,僕も何回か行って,KUCCのチャットで遊んだ.ネッ トカフェとかいいながらバイト(だと思う)のお兄ちゃんがあまりやる気なくて, 何も飲物なぞ頼まなくても全く大丈夫.ただ行って,パソコン触って帰ってく ることができた.

長距離のバスはBSIバスターミナルというところから出るのだけれど,そこに 行くまでにYHからだと街の中心で1回乗り換えなければいけない.だからちょっ と早めに7時半くらいに出た.まだ,街の中は真っ暗で,でも活動している人 達はちゃんといて,とっても不思議な感じがした.ちょうどこの日は 「Reykjavil European Cultural City 2000」かなんかの最初の日で,市内バ スが無料で乗り放題だった.とってもラッキー.8時ちょっと過ぎにバスター ミナルには着いたが,8時半にアクレリ(アイスランドで2番目に大きい町)行き のバスが出るのでバスターミナルは結構混みあっていた.

8時半を過ぎたころ小さめのバスが入って来た.こんな小さなバスなのか.実 は8時半にグルンダルフョルドゥルという町に行くバスも出ることになってい る.途中までは道が一緒みたいなので,「乗り換えなきゃいけないのかな」と 思って受付の人に聞いてみたが,よくわからないみたい.とりあえず運転手に 聞けと言う.そんなものなのかなと思いながらバスに乗り来んだ.日本のマイ クロバスぐらいの大きさのバスで結構席は埋まっていた.当然のようにスパイ クタイヤをはいていて,どんな道なんだろうかとちょっとわくわくした.

バスが走り出してしばらくすると夜が明けて来た.今日は昨日とはうってかわっ ていい天気みたいだ.青空がとってもきれいな予感がする.実際,レイキャビ クを出てしばらくすると,「レイキャビクの山」エーシャが見えてきたのだが, むちゃくちゃきれいだった.ああこの国はやっぱりこんなにきれいな所なんだ.

バスはどんどん田舎へと入って行きここで初めてアイスランドの田舎がどんな だかを見ることになる.見渡す限り真っ白の平原が続いていてときどき岩山が ごつごつと現れる.こんなところで一人置いていかれたらもう絶望するしかな いようなところ.人間の気配なんて全くない.人間どころか生物の気配がゼロ. 植物も見えない.かろうじて一直線に続いている道路が「人間の手が加わって いる」ことを示している.同じ「自然」という言葉で表していいのかどうか. 日本の自然とはあまりに違う.あまりに無機的な世界.

空は青空だが風が強く,地吹雪が半端じゃない.1回生のときの春に北海道で 地吹雪を生まれて初めて体験したけどあんなのとは比べものにならないくらい 激しい.とてもサイクリングなんてできないだろうな.歩くのだって難しそう だ.ヒッチするだけでも場合によっては命がけになりそうだ.このバスは荷物 の輸送という役割も持っているらしく,ときどき平原の真中にある農場に止まっ て荷物を降ろしたり受け取ったりしていた.

グルンダルフョルドゥルに行く道との分岐で予想通りバスを乗り換えなきゃい けなかった.ただ分岐のところに小さなロードハウスが1軒だけあって,その 前に同じような大きさのバスが止まっていた.ロードハウス以外には何もない. バスを乗り換えるときはいつもそうだが,運転手はドアとドアがくっつく寸前 ぐらいまでバスを寄せる.こっちのバスのドアを出るとすぐ目の前にもう1台 のバスのドアが来るようにするのだ.言うまでもなく,それは,乗客がなるべ く外の風に触れないで済むようにするためである.この時もすごい風が吹いて いた.乗り換えた先のバスには乗客は僕をいれて5人ぐらいしか乗っていなかっ た.


フロウダウルヘイディの峠道

しばらく走るとスネフェル半島の南側から北側に越える峠道に差しかかった. 峠の名前はフロウダウルヘイディ(361m).道はダートになる.振り返って下を 見ると集落が小さく見える.日本の「峠道」とはあまりに違う峠.青空と白い 山のコントラストが嘘みたいに美しい.この峠が越える稜線を西に行ったとこ ろにジュールベルヌの「地底旅行」の中で地底への入口とされている火山,ス ナイフェルスィェクル(1446m)がある.今日の目的地から見えることを期待し ている.

峠を下りると道は再び舗装となる.終着の一つ手前のオウラフスビークに着く. 結構大きな町だ.いや,日本の感覚からするともちろん決して大きな町ではな いが.なんかしばらく何もないところを走って来たせいか人がこれだけ住んで いる所に来るとほっとする.この町で何と僕以外の乗客はみんな降りてしまっ た.ここから終点のヘリソンデュールまで客は僕一人だった.


ヘリソンデュールの集落

ヘリソンデュールは小さな村だった.バスはガソリンスタンドに着いた.僕は 運転手に帰りのバスに乗ることを告げてその辺を歩きだした.帰りのバスまで 4時間ぐらいある.何をして過ごそう.歩き出したのはいいけど,風がものす ごく強い.5分も歩くともう外にいる気をなくした.こんなに天気がいいのに... 風に向かってはほとんど歩くのは不可能だった.気温も大して低くないと思う. 手元の温度計で氷点下4度ぐらいだった.

ここからアイスランドで一番高い構造物だというラジオのアンテナ(420m)が見 えた.一時期(1963年)にはヨーロッパで一番高い構造物だったという.もとも とアメリカ軍のロラン局だったらしい.420mもあるようには見えなかったが, 実は結構遠いところにあるからそんな風に見えるのだろうか.アイスランドの ガイドブックには「アイスランドでは遠くのものが近くに見える(空気がきれ いだから視界がいい)」と書いてあったし...

風がきつくて外にいるのがしんどかったので30分ぐらい歩いた後,バスが着い たガソリンスタンドに戻った.聞いたらレストランが1軒あるというのでそこ に行くことにした.風は本当に強くて村の中をレストランに行くだけですごく しんどかった.着いたときからそうだったが,スナイフェルスィェクルには雲 がかかっていてその全貌は見えない.レストランはおじさんが店の前の雪かき をちょうど終えたところで開店するところだった.バスが来るまで3時間ぐら いいたいって言ったら,いつまででもいていいよ,と嬉しそうに言ってくれた. どこから来たんだとか,なんで冬に旅行しているのかとか一通りのことを聞い たあと,地元の漁協かなにかの広報誌みたいなのを持って来て見せてくれた. 地元のイベントとか漁についてのことがいろいろ書いてあった(はず).僕はア イスランド語は全くわからないので写真を見て記事の内容を想像するしかなかっ た.しかし,アイスランドではどこへ行っても英語が通じるのでびっくりする. 中学生ぐらいの子供でも英語で喋りかけてくるから驚きだ.いつかこっちがア イスランド語で喋ってびっくりさせたいと思う.旅行中,アイスランド語を喋 る外国人には会わなかった.

午後になると天気はますます良くなり,スナイフェルスィェクルもその姿を見 せてくれた.バスの時間のちょっと前にガソリンスタンドに戻ってバスを待っ た.バスは発車直前になるまでやってこなかった.行きと同じ運転手だ.また もやオウラフスビークまで,客は僕ひとりだった.バスは行きと同じ道をひた すら戻る.ああこのバスは1年365日この道を走り続けているのだなあ.そんな 当り前の日常があることになんだかとっても感動した.バスの中ではアイスラ ンド語のラジオが流れていて,それに聞き入っている乗客と運転手がいる.思 えばYHとかに泊まり続けているとまわりがアメリカ人ばっかりで,英語で話す のが当り前になってたけど,「アイスランドの日常」と言うのと,えらくかけ 離れたところにいたんだなあ.

途中のロードハウスで「15分くらい停車する」ってバスの運転手が言ったとき, 意味がわかってしまった.よく考えたら「15」はアイスランド語で「フィムタ ウン」,「分」は「ミヌータ」,「止まる」は「ストッパ」で,なーんだどれ も英語とほとんどかわらないじゃないか,わかるわけだ.こっちも運転手が大 体どんなこと言うか予想がついているしね.数字は本当に英語と良く似ていて, 買物とかしたときもアイスランド語のアクセントに慣れて来ると,言われた金 額がわかるようになってくる.不思議なもんだ.

途中ですっかり日が暮れた.オーロラ見えるかなと思ってバスから空を見てみ たが無理だった.今日は見えないのか.まあ,昨日,一昨日と見えているので さすがに今日は見えないのかな.いきなり目の前に大都会が現れたと思うとそ れがレイキャビクだった.やはりレイキャビクは都会だったのだ.

バスターミナルからYHに帰る.夕方もバスは無料だった.ラッキー.シティセ ンターのバスターミナルでYHの方に行くバスを待っているとリーに会った.YH に長くいると知り合いに町中で会うことも珍しくない.たしかこの2,3日前に もクリングランショッピングセンターで2人のマイクに出会った.リーと一緒 にバスに乗って帰ったんだけど,ロバートが企画していた明日の「ハフナルフョ ルドゥルでバイキングランチを食べよう」ってやつが予約が取れなくてお流れ になった,と教えてくれた.代わりにレンタカーでブルーラグーンに行こうか, という話になっているようだ.それも悪くないな.

部屋に戻ると住人が2人増えていた.1人はアメリカ人の理論物理学を学ぶ学生 のダンテだ.もう1人はアクレリから帰って来たボブだった.それにしてもア メリカ人が多い.ここはアメリカかい,全く.台所で御飯を作りながら,ロバー トと話をする.やはり明日の「バイキング昼飯」は予約が取れなくてお流れ. 代わりにみんなでオーロラを見に夜,ブルーラグーンに行こう,ということに なった.月曜日の朝,早いんだけどなあ,と思ったがまあ大丈夫だろう.

この日の夜は髪の長いマイクと,リーと,ダンテと,あと2日ぐらい前から泊 まっているアメリカ人の大学生のカップルとで,町に出かけるみたいで,一緒 に来ないかと誘われたので行くことにした.最終バスで町に行く.最終バスも もちろん無料.さすがに土曜の夜で,人がいっぱい活動している.アメリカ人 のカップルの女の子の方が「ピチカートファイブ知ってる?」と聞いてきた. もちろん知ってる.「日本」で「ピチカートファイブ」を連想する人がいるん だなあ.

パブみたいなところでビールを飲みながらみんなで喋っていた.2階がクラブ みたいになっていて途中で気が向いた人が踊りに行くって感じだった.けっこ う年をとったおじさん,おばさんのカップルも多かったのでびっくりした.み んな楽しそうだ.一緒に行ったアメリカ人のカップル(名前を聞き忘れたんだ よね)がミネソタから来たとか言っていたが,かれらの英語はかなり分かりづ らかった.彼らは雪を見てとてもはしゃいでいた.このメンバーの中ではダン テの英語が一番ましで,リーにしてもマイクにしても言葉がとても分かりづら い.たまに話題について行けなくて妙に孤独だった.でもまあ基本的に楽しかっ た.リーがトーキョーに行きたい,とさかんに言っていた.東京なんてどこが いいのかと思うが,まあ行きたい人にとっては行きたいところなんだろう.あ とリーは,日本やヨーロッパの航空会社の飛行機に乗るのはいいけど,アジア 系のは乗りたくない,とか言ってた.そんなこと言う人いるんだなあ.ダンテ は時々物理の話とかを会話に混ぜて来る.ああ,こういう人って世界中にいる んだなあ,とダンテに親近感を持ってしまった.

朝早かったせいか,すごく眠くなってきたので,3時頃に1人で帰った.他の人 は朝までいるつもりみたいだった.バスはなかったのでタクシーで帰るのも馬 鹿らしいと思い,2kmぐらいだったので歩いて帰った.さすが,治安がいい町 だけあって,夜の3時でも人が歩いている.日本以上だ.途中で半分くらい酔っ 払った感じのアイスランド人の若者が話しかけて来た.僕が旅行者だと知ると, いろいろとお勧めの場所を教えてくれた.空を時々見上げながら歩いたが,オー ロラは見えなかった.やはり今日は駄目みたい.夜風で酔いを覚ましながら, 平和な町だなあ,つくづく思った.

YHに帰るとスティアンとトルモッドが寝るところだった.彼らも町で飲んでい たらしい.ジョーはまだ帰って来ていなかった.トルモッドは「町は苦手だ」 といっていた.あんなクラブなんかに行くよりクラシックのコンサートに行っ ていた方がいい,とも言っていた.その気持,よくわかる.

1月30日 湯気は邪魔なのか,オーロラはきれいなのか.

Reykjavik --(車)--> Blaa Lonid(Blue Lagoon) --(車)--> Reykjavik

前の日が前の日だったので起きたのはいつもよりだいぶ遅い9時ぐらいだった. でも他の人はそれでもまだ早いみたいで例によってロバートぐらいしか起きて いなかった.今日は夕方からブルーラグーンに行く以外予定がないのでかなり, だらだらした.結局,ブルーラグーンに行くのは,ロバートと,ダンテと,マ イクと,リーと,僕である.なんのことはない,昨日の面子にロバートが加わっ ただけだ.またアメリカ人とともに行動するわけだ.

朝食後,コリーヌに会った.「あれ,まだいたの? てっきりもうハフナルフョ ルドゥルに行ったんだと思ってた」「今日行くつもり」ということだった.ハ ガも起きて来たので,しばらく彼女らと喋ってた.コリーヌは高校生くらいの 年代.今は学校には行ってないけれどノルウェーに帰ったらまた勉強したいと 言っていた.ハガは30歳くらいだろうか.ゲストハウスをやっていたけど,休 んで自分が旅行に来ているみたい.2人の出身はノルウェーの北の方の小さな 島.そこの観光パンフレットを彼女らはYHに置いて行った.

起きて来たトルモッドに2人を紹介して,僕が去ると彼らはノルウェー語で話 しだした.たまには母国語で喋る必要がある,とこの何日後かに会ったフラン ス人のフィリップが言っていた.トルモッドの連れのスティアンは「女の子と 喋るのに別に興味なんかない」と言う感じで片隅で勉強していた.スティアン に日本語で(彼の)名前を書いて欲しいと言われたので,書いてあげるとすごく 喜んでいた.

お昼ごろ,コリーヌとハガがハフナルフョルドゥルに向けて出発して行った. この後どこかで会うかも,とか言っていたが結局会わなかった.お昼過ぎにボ ブが起きて来た.アクレリは小さな町で感じいいよ.と教えてくれた.カフェ でアイスランド人の女の子とメールアドレスを交換したらしい.いや,そんな ことはどうでもいいんだけど.ボブはいつも野球帽をかぶっていてそれが似合 う感じのアメリカンなちょっと恰好いいやつだった.

夕方,レンタカー屋さんから迎えの車が来て,ロバート,リー,マイク,ダン テ,と僕でYHを後にした.トルモッドとスティアンにさようならを言う.彼ら は今日の夜,学校に戻るのだ.レンタカーを運転するのはリーのようで,リー はATじゃないと嫌,とさかんに言っていた.ここはヨーロッパなのにそんなAT 車なんて...アメリカじゃないんだから.案の定,AT車は韓国車(KIA)しかなく て,リーはすごく嫌そうだったけど,しぶしぶ承知していた.MTに乗るくらい なら韓国車に乗った方がいいとでも思ったのだろうか.車に乗ったら当り前だ けど左ハンドルで,すごく違和感があった.

リーはかなり小心者みたいで面白かった.スピードは出さないし,文句ばっか り言ってるし.みんなでリーをからかうような感じだった.1時間ぐらい走っ てブルーラグーンに着く.1週間前に自転車で来たときは,全く雪などなかっ たのに,今回は雪だらけである.1週間でこんなに変わるんだなあとちょっと びっくり.中に入っても,昼間来たときとは全く違う感じだった.昼間来たと きは,お湯の色が青色(と言うか水色)なのがよく分かるのだけど,夜は無理. あと夜は湯気がすごい.照明の数は限られていて,全く真っ暗でカップルが抱 きついているようなところもあった.

入った時は全くオーロラなんて見えなかった.2時間ぐらい,中で泳いだり, サウナに入ったりして2時間ぐらい過ごしていた(ところでアイスランドのサウ ナは日本のと違って,温度が低くスチームが吹き出しているやつである.この 前,大阪で銭湯に行ったときそういうサウナだったけど,あまりそういうサウ ナに日本で出会ったことはない).マイクと「ノーザンライト(オーロラのこと, 英語)見えないね」とか言って上を見ながらラグーンの中を泳いでいたら,うっ すらと緑色の光が見えるではないか.マイクの方を見ると彼も見付けた様子で 興奮していた.薄い緑色の光はだんだんと濃くなって,形も直線から波打つよ うなのになっていって,見事なオーロラが見え始めた.湯気が邪魔で,時々し か見えないのに苛立ちを覚えたので,風上の浅い方へ行って,お湯の中で寝っ ころがりながら上を見た.肩とかお湯から外へ出るとちょっと寒かったが,実 に見事なオーロラだった.「温泉に入りながらオーロラを見る」ってまさに夢 のような出来事だ.まわりを見るとまわりの人もみんな上を眺めている.こん な素晴らしいところなのに,団体とかは別にいなくて,すごく人が少なくて快 適に過ごせるのが何と言っても素晴らしい.

9時.ブルーラグーンは閉まる時間である.もう3時間もここにいたことになる. こんな長風呂(?)は始めて.ロバートがもっと暗いところに行ってオーロラを 見よう,と言ったので,帰りにちょっとドライブに行くことになった.


アメリカ人達

レイキャビクの近くで国道から外れて山道に突入.どんどん雪が多くなるが, 道路上は除雪されているのであまり問題はない.すれ違う車も全くなし.傾斜 がどんどん急になる.りーは「行きたくない」と言うがみんなが行け行けと言 う.前にすごく急な登り坂が現れる.リーがためらっていると反対側から4WD が来た.ほう,こんな時間に来る奴がいるもんだ.リーは「4WDじゃないと無 理だ」と言って行こうとしないが,とりあえずそこの坂だけ登った.登り切っ たところで,雪の吹き溜りがあり,そこへ突っ込んで車は前に進めなくなった. バックして抜ける.ここから先は無理みたいなので,その辺を歩く.もう少し で峠みたいなところで,前に見える山が雪を被っていてとても恰好いい.真っ 暗だったが,残念ながらオーロラも消えていた.そのへんで写真を何枚か撮っ てレイキャビクへと引き返した.

YHに帰るとちょうど閉まったところだった.ベルを押すとライアンが起きて来 てドアを開けてくれる.いつものことながらご苦労さま.ついでにライアンに みんなの写真を撮ってもらう.この日はみんなテンション高かったなあ.野郎 ばっかりだと言うのに.