はじまり

1月22日 憧れの小さな国へ

Copenhagen --(飛行機)--> Keflavik --(自転車)--> Njardvik


ケプラビーク国際空港前

コペンハーゲンから2時間半,アイスランドの大地が見えた.飛行機から見え るのはおそらくアイスランド最南部のミールダルス氷河とその南側の山々であ ろう,雪に覆われた山なみである寒そうな感じだ.ところが驚いたことに機長 のアナウンスによるとケプラビーク国際空港の天気は小雨,気温はプラス3度, らしい.これが本当ならコペンハーゲンよりよっぽどか暖かいことになる.北 大西洋海流,偉大である.

アイスランドの入国には結構時間がかかった.もともと入国審査の窓口が2つ しかない上に,4週間滞在すると言ったら,どこに泊まるのかとか,帰りの航 空券を見せろとか,どこに住んでるのかとか,いろいろ聞かれた上にパスポー トをスキャナに読みとらせていた.

空港の外に出てみると,やはり雨が降った形跡があり,気温も暖かだった.雪 なんて全く見えなかった.溶岩の広がる大地から強烈な硫黄の匂いが漂ってく る.ああやはりここは火山の国なんだ.これが憧れのアイスランドか.

自転車を組み立てている間に夕方の便で着いた人達はほとんどいなくなってし まった.飛行機が着いたのが3時半ぐらいだったから,そろそろ暗くなる時間 だ.ナイトランになるのは必至だったが,それでも早く宿に着きたかった.走 り出す準備ができたころにはほとんど太陽は沈んでいた.ライトをつけて慣れ ない右側通行の道路を走り始めた.

真っ暗な荒野にナトリウム灯の明りだけが道路にそって続いている.走ってる と汗をかくくらい暖かい.視界に雪はまったくなく,余裕で走れる.思い描い ていたアイスランドのイメージとだいぶ違う.今日はケプラビークの隣町のニャ ルドビークのYHに泊まるつもりだったが,着いてみると工事中で,もうYHは営 業していないとのこと.ちょっと焦ったけど,もう2kmぐらい走れば次のYHが あることを知っていたので,そっちに向かった.

着いたYHでは灯りはつけっぱなしで,テレビもハンドボールのヨーロッパ大会 を延々とアイスランド語で放送していたが,人の気配はゼロ.そこに住んでい るアイスランド人の男の人に「そのうちオーナーが帰ってくるから待ってたら いいよ」とか言われて,1時間ぐらい待った.1時間後にやってきたのは30歳ぐ らいの女の人.外に自転車があるのを見て「お客さんが来てるのかな」と思っ たらしい.それもそのはず,旅行者の宿泊客は僕一人だけで,あとはアイスラ ンド人か出稼ぎ労働者が数人住んでいるだけだった.ここのYHはそこそこ田舎 にあるだけあって夜も全く鍵をかけない.さすが聞いていただけあって治安の 良いところである.僕は7人部屋に一人だけでかなり快適に過ごした.

1月23日 だらだらだら

Njardvik周辺(自転車)


ニャルドビーク付近,雪は全くなかった

朝起きたらガスガスの曇りの天気だった.どうせ時間はたっぷりあるし,スー パーに買いだしに行ったり,その辺の町まで自転車で行ったりしてだらだら過 ごした.昼ご飯を作っているときに,ホンジュラスから季節労働に来ている人 とちょっと話をした.あとでレイキャビクで聞いた話だがアイスランドは「ヨー ロッパで労働ビザが一番とりやすい国」だそうである.意外な事実.何と言っ ても人手不足のようだ.

1月24日 青い風呂は海水の味がした.

Njardvik --(自転車)--> Blaa Lonid(Blue Lagoon) --(自転車)--> Njardvik

前の日よりももっと天気は悪かった(小雨がぱらついていた)がここに1日いる のもしゃくなのでブルーラグーン(アイスランド語では「ブラウア ロウニド」-- アイスランドで最も有名な観光地のひとつ,巨大な露天風呂)に行くことにす る.天気が良かったらレイキャーネス半島のさきっぽをひとまわりしようかと 考えていたが,天気が悪いので萎えてピストンにした.夜が開けるのは10時ご ろ.10時半ぐらいに出発して1時間ぐらい走ってブルーラグーンについた.ガ スガスで視界は最悪.行く途中,雪を被った山々が見えた.アイスランドで見 る初めての雪.溶岩で覆われた荒野のなかに唐突に地熱発電所とブルーラグー ンはあった.

ブルーラグーンは近くの地熱発電所の排水を貯めた池で,地面から湧き出した 水ではない.それでも天然の温水には変わらないわけでまあ温泉の露天風呂と いってもいいと思う.地熱発電所の近くにはどこでもこのような排水池がある. ただし施設として整備されているのはここだけ.ブルーラグーンは日本の「露 天風呂」のイメージからは想像もつかないぐらい巨大で,入浴(?)可能な部分 だけで約1ヘクタールもあるらしい.「混浴」っていうか水着を着て入るので プールみたいなもの.水深は深いところで僕の肩ぐらいまでだった.水温は約 40度と暖かいが,深いところでは下半分が冷たかった.水の色は薄い青色でな めるとしょっぱい.日本のその辺の温泉よりよっぽどか効きそうな気がした.

アイスランドで一番有名な観光地の一つのくせにやけにすいていた.僕が入っ ているときも5,6人しかいなかった.1ヘクタールにそれだけだよ.まあ冬だし 平日だしそんなものなのかもしれない.天気がガスガスだったせいか自分の本 当に近くしか見えなかった.だから人が少なく感じたのかも知れない.僕の買っ た券は3時間まで有効だったけど2時間ぐらいでさすがに飽きたので出た.天気 は相変わらず良くないので,売店で絵はがきだけ買い,また自転車で1時間の 道をまっすぐ帰った.

誰もいない静かなYHで絵はがきを書いて本を読んでいたらいつの間にか暗くなっ ていた.昼は本当に短い.明日はここを出て次の町に行こう.

1月25日 自転車で移動できるってことは素晴らしい.

Njardvik --(自転車)--> Hafnarfjordor --(自転車)--> Reykjavik

朝ご飯を食べた後明るくなるのを待つ.夜が開けるか開けないうちに昨日から 泊まっている30歳くらいの女の人が起きて来た.アイスランド人でレイキャビ クの新しいアパートができるまでここに住む,らしい.良く喋る化粧の濃いあ やしい感じの人だった.まあ話を聞いている分には面白かったのでずっと聞い ていた.この人,英語の他にスペイン語も喋れるみたいで,ヨーロッパの人っ ていうのは普通に数か国語喋れたりするからびっくりである.

10時半ごろ明るくなったので出発する.レイキャビクの手前のハフナルフョル ドゥルという町まで行くつもり.まあ40kmぐらいじゃないかな.途中までは昨 日と同じ道.昨日より天気は少しはいいみたいで視界はかなりいい.全く違う 景色に見える.遠くの方に雪を被った山が見える.ああ,やっぱりここはアイ スランドなのか.ハフナルフョルドルまで町らしい町はないが気のせいかだん だん車の量が増えて来るような気がする.

ハフナルフョルドルの分岐まで来ると,もう首都圏である.予想以上に都会だ. 首都圏の人口全部合わせても15万人ぐらいしかいないと,たかをくくっていた が,やはり1国の首都ともなるとどんなに人口が少なかろうが迫力があるもの なのか.ハフナルフョルドルのYHは街中にあった.入ってみると生活臭が漂っ ている.どうも冬は「住んでる」人ばっかりのようだ案の定聞いてみると「空 き部屋などない」ということであった.

しょうがないのであと10kmぐらいレイキャビクまで走ってしまうことにした. これが結構太い幹線道路で車がものすごく多くてしんどかった.しかもだんだ ん天気が悪くなってきて雪までぱらついてきた.雪が強くなるころ,ようやく レイキャビクの街につくことができた.レイキャビクのYHはすごく近代的な感 じのするきれいなところだった.他にも大勢の旅行者が泊まっていた.ここに は旅行者もいるんだ.あとになってわかるが,一歩レイキャビクの外に出ると 旅行者の数はものすごく少ない.この時期のほとんどの旅行者はレイキャビク に数泊して帰る,というパターンみたいだ.

1時間ぐらい休んだ後,元気になったので買いだしに行き,町中に行ってみた. やはり1国の首都だけあって車が多い.本当にこの町,人口11万人しかいない のか?嘘みたいだ.大都会じゃないか.ちょっとだけがっかりした.片側2車線 の大きな道が町を東西,南北に貫いていて,すごい交通量である.こんなんで 空気が本当にきれいなのだろうか?

夕飯時になると夕御飯を作りにみんなが台所に集まって来る.日本人?もう一 人日本人の女の子が泊まってるけど何で日本人はみんな一人で旅行してるの?1ヵ 月もアイスランドにいるの?何で冬に来たの?アイスランドだけ?ヨーロッパの 他のところは行かないの?この質問は僕にはちょっと意外だったのだが,この 先,行く先々で聞かれた.多くの場合「ヨーロッパにはもっといい場所がいっ ぱいあるのに」というニュアンスが含まれていた.でも僕はアイスランドに来 たかったから来たんです.

アメリカ人のロバートは30台くらいのおっさんで,アイスランドで働いて,コ ンピューター関係のテクニカルライターをしている.同じくアメリカ人のマイ クは髪の毛が長くてちょっと70年代みたいな外観をしている.アイスランドで 職捜し中.南アメリカからきたライアンは,魚の加工工場で働いている.旅が 好きみたいでアフリカを死にそうな思いをしながら旅をしたこともある.「南 アフリカじゃ賃金が安くて働く気になれない」と言っていたが,いわゆる「出 稼ぎ」とはイメージがずいぶん違う.なんかいろんなところからいろんな人が 流れついてきている.

同室のアメリカ人のボブは国立公園で働いていたこともあるアウトドアな人で 「新しい道具を試す」ためアイスランドでキャンプする,らしい.次の日のバ スでアクレリ(北の方にあるアイスランド第2の町)に行って,そこでキャンプ をすると言っていた.

久しぶりににぎやかな夜を過ごした.夜雪が降っていた.この日を最後に雪 のないアイスランドを見ることはなかった.